初めて睡眠トラッカーを腕にはめた朝、画面に並んだ数字がさっぱり分かりませんでした。深い睡眠1時間38分、レム睡眠1時間51分、覚醒14回。よく眠れなかった自覚はあっても、機械が実際に何を測っているのか分からなかったのです。ある土曜の朝、コーヒーを二杯淹れ、睡眠医学の解説記事を片っ端から読んで、頭が枕に着いてから目覚ましが鳴るまでの流れを追ってみました。分かったのは、睡眠が一つの均一な状態ではないということです。90分周期で異なるステージを巡っていて、どのステージで起きるかによって、朝の感覚が大きく変わるのです。
ここでは、用語の羅列ではなく、夜が実際に進む順番に沿ってまとめます。
最初の数分:浅い睡眠(N1)
目を閉じて横になっても、すぐには眠れません。まどろみの状態です。これがN1で、夜の中で最も短く、通常1分から7分、全体の約5%です。白いスコティッシュフォールドのラックがタンスに飛び乗る気配も、ぼんやり聞こえています。名前を呼ばれれば気づくでしょう。呼吸がゆっくりになり、心拍数が下がり、筋肉が緩み始めます。N1で起こされると「眠っていなかった」と言い張ることが多いのも、このステージの特徴です。
長年、僕はN1を不眠だと勘違いしていました。まどろみの縁にいるだけなのに、時計を見て「まだ起きている」と焦り、その覚醒ですぐに元に戻ってしまう。この境界が正常なステージで、短くて当然だと知ってからは、夜中の時計確認が少し怖くなくなりました。
体の基本設定:N2
次に来るのがN2で、夜の約45~55%と一番長く過ごすステージです。脳の活動はゆっくりしたリズムに落ち着き、二つの小さな現象が混ざります。一つは睡眠紡錘波という短い活動のバーストで、脳を鎮め、外乱から睡眠を守る働きがあると考えられています。もう一つはK複合体という大きな単発の波で、黒い小犬のリリがそばのベッドで寝返りを打つような音に反応して出ることがあります。
N2は本物の睡眠ですが、比較的浅く、子どもの泣き声や火災報知器で起きるなら、このステージが一番ましです。心拍数と体温はさらに下がり、体はこれから来る深い睡眠に向けて準備を整えていきます。
深い睡眠(N3):午前3時が別世界に感じる理由
そしてN3、徐波睡眠、いわゆる深い睡眠です。トラッカーがいつも期待外れの数字を出していたステージでもあります。健康な成人の13~23%を占め、夜の前半、特に最初の二つの周期に集中します。脳波は大きくゆっくりになり、血圧が下がり、呼吸はゆっくり規則的になり、成長ホルモンの多くが分泌されます。組織の修復と回復は、ここで実際に行われるのです。
このステージがあるからこそ、若い頃の徹夜明けの午前3時に避難訓練があると、水中から浮上するような感覚になります。N3の人を起こすのは本当に難しく、無理に起こせば数分間ぼうっとします。これは睡眠慣性と呼ばれる現象です。僕は目覚ましを深い睡眠の真ん中に置かないようにしました。当サイトの睡眠周期計算ツールの発想もそこにあります。起きる時刻を周期の深い途中ではなく、終わりの浅い位置に合わせるのです。
夢遊病や夜驚症も深い睡眠で起きます。脳が徐波睡眠からきれいに移行せず、半分覚醒するからです。子どもの頃、夢遊病になった兄の記憶が、これで腑に落ちました。彼は夢を見ていたのではなく、N3で部分的な覚醒に挟まっていたのです。
レム睡眠:夜が不思議になる時間
深い睡眠の後、周期はN2を上り、レム睡眠(急速眼球運動睡眠)に入ります。レム睡眠は夜の約20~25%で、深い睡眠とは逆の分布をします。早い時間は短く、朝に向かって長くなり、最後のブロックは40~60分になることもあります。夜で一番鮮明な夢の真っただ中で目覚めることが多いのは、このためです。
レム睡眠中、脳は覚醒時に近いレベルで活発になりますが、体の随意筋はほぼ麻痺します。夢を実行しないための保護機構です。閉じたまぶたの下で眼球が動き、呼吸と心拍は不規則になり、印象的な夢の多くが生まれます。体だけが選択的に麻痺すると知って、古くからある「走りたいのに走れない悪夢」の謎が解けました。あの感覚には本当の生理学的な根拠があったのです。
周期が夜を通して積み重なる仕組み
N1、N2、N3、N2を戻ってレム、という一巡が約90分で、普通の夜に4~6回繰り返されます。ただし周期は毎回同じではありません。最初の周期は深い睡眠が主体です。だからワインを一杯飲んで前半のレムが少し減っても案外平気で、夜の早い時間に中断されると回復コストが大きい。後半の周期は浅くレム中心になるため、最後の1時間の夢を覚えている確率が高いのです。
トラッカーのデータでこの形が見えるようになってからは、騒がしい1分1分を全部同じように扱うのをやめました。深い睡眠は少し少なくても、周期がきちんと繰り返された夜は大丈夫。最初の3時間に何度も起きてN3が半減した夜は、合計時間に関係なく、翌日ぼうっとする確率が高かったのです。
よくある質問
完全な睡眠周期はどのくらいですか?
成人では約90分です。浅い睡眠、深い睡眠、レム睡眠を巡ります。個人差はありますが80~110分程度です。
どの睡眠ステージが一番大事ですか?
どれも別の役割を持ちます。深い睡眠は体の回復、レム睡眠は記憶の定着と感情の調整、浅い睡眠は周期のつなぎです。どれかを常に削るのは問題です。
なぜ起きる直前に夢を見ることが多いのですか?
レム睡眠は夜が進むほど長くなるため、目覚める前の最後の周期に最も長く記憶に残るレムが来るからです。
睡眠トラッカーのステージ判定は正確ですか?
市販のウェアラブル端末は体動と心拍から推定しているため、傾向をつかむには役立ちますが、医療用脳波ほど正確ではなく、診断用ではありません。
まとめ
睡眠は約90分周期の繰り返しです。浅いN1、N2、深い徐波睡眠のN3、そしてレム睡眠の順に進みます。深い睡眠は夜の前半に集中して体の回復を担い、レム睡眠は朝に向かって長くなり、鮮明な夢の多くはここで生まれます。深い睡眠の途中で起きるのではなく、周期の終わりの浅いタイミングで起きる。朝のだるさを一番減らしてくれたのは、このたった一つの調整でした。
参考文献
1. American Academy of Sleep Medicine. Sleep Stages and Sleep Architecture. https://sleepeducation.org/
2. Sleep Foundation. Stages of Sleep: NREM, REM, and the Sleep Cycle. https://www.sleepfoundation.org/stages-of-sleep
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